大きくなったお腹を大切そうに抱え、ゆったりとした足取りで歩く妊婦。
少子化が進む中そんな姿を見かけるだけで、幸せをおすそ分けしてもらったような気分になるものです。
しかし10か月に及ぶ妊娠期間は、希望と共に常に危険と隣合わせでもあります。
「今つまずいて、こけてしまったらどうしよう」「天気が悪いけど、お腹の子供のためにも栄養豊富な野菜を買いに行かないと」妊娠中は鉄分などの栄養が胎児に優先して回されるので、常に貧血気味でふらつきがちな人も多いものです。
しかし家事や上の子の育児に追われてつい頑張ってしまい、転倒事故を起こしたり、その後胎児への影響を心配する妊婦が後を絶ちません。
ここでは妊婦の転倒の原因と、妊娠期間により考えられる胎児への影響、そして転倒を防止する方法について紹介します。
妊婦が転倒した場合の胎児への影響は少ない
妊娠中は大きくなったお腹に視界が妨げられ、足元が見えづらくなります。
それ以外にも、前にお腹が張り出すことでバランスをとろうと、背中を反らせるため身体の重心が取りづらくなります。
妊娠7か月で転倒してしまった以下の体験談のように、比較的心身の状態が安定する妊娠中期でも、妊娠中は転倒が起こりやすいものです。
ぐらりとバランスを崩してしまい転倒。その時に膝も強くひねってしまったようで、痛みで動けませんでした。
結果、救急車でかかりつけの産婦人科がある、総合病院へ搬送。
膝は捻挫、幸いなことに赤ちゃんには影響がなかったものの子宮頚管が短くなってしまい切迫早産との診断を受けました。
しばらくは松葉杖も手放せず、さらに仕事も退職するはめになってしまいました。
結局、産む直前まで絶対安静の日々が続いたのでした。
引用:妊娠7か月で転倒
特に大きくなった子宮が腸や膀胱などの内臓を圧迫する妊娠後期は、急激にお腹が大きくなるとともに頻尿となり、自宅や外出先でトイレに走ることも多く、転倒も起こりやすくなります。
十分に注意は必要ですが、よほどひどく転ばない限り、妊娠中はお腹に脂肪が多くついたり、胎盤や羊水などで胎児は守られているため、転倒による影響はそれほど大きくないといわれています。
多くの場合は羊水が守ってくれる
妊娠中はお腹の赤ちゃんを守るため、母体は劇的に変化します。
お腹周りに脂肪がつきやすくなり、赤ちゃん周辺には羊水が張り巡らされます。
産婦人科医が以下に説明するように、この羊水が赤ちゃんを衝撃から守る重大な役目をしています。
羊水があることで、胎児と子宮の壁との間には空間ができます。この羊水で満たされた空間が、じつはとても大切な役割を果たしています。
一つには、クッションの役目。お母さんが転んだり、お腹に何かがぶつかったときに、胎児に直接、衝撃が伝わらず、胎児を守ることができます。
引用:羊水はクッション、トレーニング場
転倒しても羊水が豊富な妊娠中期から後期は、クッションとなって衝撃を和らげてくれます。
まずは母体の怪我の有無をチェック
「流産してしまったらどうしよう、赤ちゃんに影響があったらどうしよう」転倒しても、妊婦は自分の身体のことより、おなかの赤ちゃんへの影響で頭がいっぱいになってしまうものです。
不安で気が動転してしまうところですが、赤ちゃんを無事に生むには母体の安全が確保されていることが第一です。
のちに受診し医師に診断を仰ぐためにも、まずは冷静になって「どこを打ち、どこが痛いのか」などをチェックすることが必要です。
ただし、打ち身や捻挫(ねんざ)などの怪我をした際は、痛み止めに市販の薬を飲んだり、湿布薬を貼るのは禁物です。
湿布の成分の中には、痛みを抑えるために血管を収縮させる効果があるものがあります。
母体を通じてこうした成分が胎児に影響するおそれもあり、湿布を使用する際には必ず産婦人科医の指示を仰ぎましょう。
また、骨折が疑われる場合、レントゲン撮影を独断で受けるのは禁物です。
レントゲン撮影時の放射線は胎児に影響があると言われています。
安全に配慮したうえで撮影してもらえる場合もあるので、婦人科に相談して「妊娠中であること」を放射線科にも連絡してもらいましょう。
万が一転倒したときに必ず確認すべきこと
万一転倒してしまった場合、母体や胎児に及ぶ危険度や確認すべきことは、以下のように妊娠の時期によって変わってきます。
- 妊娠初期
→妊娠16週までは、まだ赤ちゃんを保護する胎盤も未完成で、転倒の衝撃が直接胎芽(赤ちゃんの元となるもの)に伝わり、流産の危険性があります。 - 妊娠中期
→妊娠16週以降、胎芽や卵膜もできてきて、卵膜の中の羊水が赤ちゃんのクッションとなり衝撃をやわらげてくれます。
ただし衝撃が大きいと卵膜が破れ破水し、切迫早産や、最悪の場合死産といったおそれもあります。 - 妊娠後期
→臨月が近くなると羊水は最大量になるため卵膜も薄くなり、転倒の衝撃で赤ちゃんが胎内で怪我を負うおそれがあります。
切迫早産や前期破水、まだ出産の準備ができていないのに胎盤がはがれてしまう、胎盤剥離(たいばんはくり)などの危険があります。
確率は少ないまでも、転倒によって起こりうるこれらの危険な状態は、どのような兆候があるのでしょうか。
膣からの出血の有無
転倒すると特に妊娠後期では、赤ちゃんを包んでいる胎盤が子宮壁から剥(は)がれ出してしまう、胎盤剥離が起こる危険があります。
胎盤剥離は以下の画像にあるように、出血を伴うことがあるので、転倒後なるべく早くトイレでショーツを確認し、膣からの出血の有無を確認しましょう。
胎盤剥離が起こると大出血したり、母子ともに危険な状況になりかねません。
妊娠高血圧症候群や喫煙が原因でも起こるといわれていますが、交通事故や転倒などの強い衝撃でも起こるとされています。
お腹の痛みや張りはないかどうか
お腹に強い張りや痛みが走った場合、以下の画像が表わすように切迫早産になるおそれもあります。
早産とは妊娠22週0日~妊娠36週6日までの出産を指します。
早産になるとまだ完全に胎児の成長が進んでおらず、体重が500g前後で生まれてしまったり、新生児医療を受ける必要も出てきます。
早産になりかかっている状態を切迫早産といい、この場合も子宮の収縮を抑えるなどの早急な処置が必要になります。
破水していないかを確認する
また、臨月でお産が近いと、衝撃により破水する場合もあります。
破水とは、子宮内で胎児を包んでいる羊水が、卵膜が破れることで膣から体外に流れ出てしまう状態のことです。
母体や赤ちゃんが出産する準備が整っていない状態で破水すると、赤ちゃんが呼吸できなくなったり、細菌に感染してしまうおそれがあります。
羊水が流れ出た場合も、以下のように下着などに兆候が表れます。
- 尿とは明らかに違うサラサラした水のようなものが流れ出ている
- 緑がかった液体が膣から出ている
- 体液が出た後、腹部に生理痛に似た激痛が走る
こうした場合は、妊婦健診を待たずに早急に受診するべきでしょう。
妊娠中の転倒予防方法
こちらの動画は足を踏み外しやすい階段での歩き方など、転倒事故防止の参考になります。
こうしたこと以外にも、普段からの心がけで転倒を未然に防ぐことができます。
なるべくフラットシューズを履く
職場でヒールの高い靴の着用を義務付けられている場合もありますが、妊娠中はスニーカーやスリッポンなど、平らで歩きやすい靴がおすすめです。
- ウォーキングシューズなど滑り止めのついた靴や、ヒールのついていないフラットな靴を選ぶ
- すり足で歩かず足を高く上げ、歩幅を大きくしゆっくりと歩く
足元が見えづらい妊婦にとって、靴は安全な妊娠生活のための生命線ともいえます。
寒冷地では滑りづらい靴を選ぶ
また、特に注意が必要なのが冬の外出時です。
冬でなくても寒冷地では、路面が凍結していたりして妊婦でなくても転倒事故を起こしやすく、以下のような点に気を付けて歩行する必要があります。
- 雨天時や寒冷地、路面が凍結している場所では外出を避ける
- 風呂場やショッピングモールの床など、水にぬれている場所では動作を急がず、足元をよく確認する
- スケジュールに余裕を持って行動する
妊娠中はつわりなどで体調が乱れていることが多く、注意力も散漫になってしまうものです。
歩行にも普段以上に時間がかかり、つい急いで転倒してしまうことも多いです。
特に天気が悪かったり、飲食物で床が汚れているおそれがある店内では、焦らず行動するよう気を付ける必要があります。
外出先以外でも自宅の風呂場も、お風呂洗いをしている際にすべり、転倒しやすいと言えます。
安全のためにこうした家事を夫に頼んだりすることも、これから始まる育児のためにもプラスになるかもしれません。
リュックを背負うなどして極力両手を空ける
妊娠中は体調が不安定で、お腹も大きく動くのもつらい時もあり、ちょっとした日用品でも一人ではなかなか買いに行けないものです。
産後も使えるマザーズバッグやマザーズリュックは機能面でも優れていて、おすすめですよ。
足元がふらつきやすいため、躓(つまず)いた時に壁や地面に手をつけるように、外出時はマタニティ専用の商品を使ったりなど、以下のように工夫し、両手を空けておけると良いでしょう。
- 手で持つバッグではなくショルダーバッグやリュックなどを使用する
- 歩きスマホをやめる
特に歩きスマホは、妊婦に限らず事故が多発しています。
妊娠中は何が起きるかわからず、携帯は手放せないものです。
携帯を忘れたり充電が切れたりしても夫や病院に連絡がとれるよう、母子手帳と共に連絡先のメモを持ち歩くことが無難です。
転倒や貧血で意識を失ってしまったりすると、自分で連絡が取れるかわからないからです。
まとめ
転倒は妊娠中に起こりうる、大きな心配事項と言えます。
特に初産ではそれまで経験したことのない身体の重さ、だるさがあるにも関わらず、つい今まで通り自転車に乗ったり無理をしてしまいがちです。
そんな時、外出先などでできる一番の転倒防止対策は【夫と手をつなぐこと】かもしれません。
厳しい育児を手を取り合って行っていくためにも、夫婦円満でいることが、何よりの転ばぬ先の杖となってくれることでしょう。
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